コンサル女子 Hiroko のシリコンバレー目うろこ記

生粋東京っ子が実体験から思考した、"シリコンバレーと東京の差/GAP"を紹介します

SVの超ヤバイ肯定文化(1)

「肯定文化」。
 
米国文化の1つだと思いますが、自分事になったのは、管理職研修@米国で、部下へのフィードバックコミュニケーション研修を受けた時です。
 
曰く「サンドイッチ」手法。
 
・まず、褒めて(例: 最近、会議で発言する機会が増えましたね)
・次に課題を指摘し(例: 時々その場の思い付きと取られかねない発言をする傾向があります)
・最後に提案をする(例: 数字や根拠データを一緒に示すと納得感が高まりますよ)
 
これを、米国人同僚とペアになってロールプレイを繰り返し、スキルとして身に着ける訓練を受けました。日本人相手でも効果大なので、その後も実践し続けています。
 
しかし、ここシリコンバレー(SV)で、
 
「SVの肯定文化、マジ、超ヤバくないか?!」
 
という、興奮と恐怖が入り混じる衝撃を何度か経験しました。それは、私の馴染んでいた肯定文化とは完全に別モノだったのです。
 
 
フィードバック第一声は超賞賛がディフォルト
まずは静かに嬉しかった衝撃から。
 
私の通うスタンフォード大学のプログラム "Ignite (Stanford Ignite | Stanford Graduate School of Business)"では、授業開始2ヵ月前から、同期のみ参加できるサイトがオープンし、プロフィール情報の登録、グリーティング投稿、及びサイト経由の事前課題の提出が義務づけられています
 
課題の1つに、「起業案の提出&投票」があります。
 
授業の開始後、全員が12チームに分かれ、1チーム1事業案を題材に疑似起業プロセスに取り組むため、皆本気です。そして、提出期限の翌日には、同期発の64案がサイト上でオープンになり、そこから第1次選考(全員で投票)に向け、質問等のやりとりが日々熱く交わされました。
 
私も温めていた渾身の事業案を提出しました(笑)。すると、まだ会ってもいない同期から次々とコメントが届きました。
 
Hi, Hiroko」に続く彼らの1文目↓

 - This concept sounds excellent and agree is still sorely underserved, but...
 - Great idea, and based on my experience with large corporations it is much needed...
 - I like your idea and particularly like the ideas target market, i.e...

生粋東京っ子な私は、まだ会ってもいない米国人若者から(割と地味な)私の事業案に対し「Excellent」、「Great」、「Like」付きのコメントを貰い、素直に嬉しかったです。もちろん全員でなく、ほんの数人(人数比で全体の1割)からですが、逆にそれが本音に想え、とても嬉しかったです。
 
重要なポイントは、フィードバックは全て、このような超賞賛から入る点です。逆に言えば、ピンと来ない人はコメントしないだけ。批判・否定から始まるフィードバックはゼロなのです。
 
 
ブッ飛びこそ超賞賛
一瞬眉が寄った、けどこれヤバイかも的な衝撃。
 
皆さん、Moonshot Thinking(注)という言葉をご存じですか? 

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私は馴染みがなかったので慌てて調べました(笑)。この言葉は、SVでは説明不要で使われ、そして何より、Moonshotな案が最も賞賛を集めます。
 
先に紹介したTim Draperさんとのランチ会 (SV流「失敗」の定義 - コンサル女子 Hiroko のシリコンバレー目うろこ記)で彼が強調したのも、このMoonshot発想。
 
曰く、「イーロン・マスクが "火星だ!”と初めて叫んだ時、大多数は静かに冷笑した。しばらくして、科学者が1人、また1人、彼に賛同した。今や冷笑する者は1人もいない。最初に冷笑した人は肩身の狭い思いをしている」。
 
そして「(見える)5年先ではなく、(見えない)15年先を想い描け!」と力説されました。
 
これ、生粋東京っ子には相当な衝撃でした。
 
私、実は10年先を夢見るの大好きです。でも、東京では(中期計画の期間である)3年以上先の議論をすると、大抵は理解されず、結果として賛同してくださる方は殆どいません。むしろ、明日の課題に取り組むべし、と助言くださる方が多いのです。そんな生粋東京っ子的に、5年先でも充分嬉しいのに、15年先と聞いた時は、少しおののきました(笑)。
 
 
もう一つ。これはスタンフォード同期の事業案にまつわる衝撃。
 
簡単に言うと、こんな案↓

 - What? -- MRI brain scans.
 - Who? -- Nerds.
 - Benefit? -- None. It's just for fun.
 
初めて読んだ時の、正直な感想。
「オタクの脳ミソをMRIスキャンする...?? 価値無し!って...それ、言い切る?!  けど楽しいじゃん!って...ええー、それアリ?? だって事業案でしょ?誰が何の価値に対して金払うとか、考えなくていいの?!」
 
続いた衝撃は、なんとこの案、提案直後から思い切りバズり、一気にトレンドランキングトップに踊りでるのです。 投稿されたコメントの第一声は皆同じ。
 
This is very interesting!!!
 
私はまたも「えっえー・・・マジ、これアリなの?!」
 
この案は無事(?)、第一次選考を通過しました。生粋東京っ子的には「はー、私が間違っておりました」という心境です。(ちなみに、私の案もお陰様で第一次選考を通過しました)
 
注)  Moonshot Thinking lives in the gray area between audacious projects, and pure science fiction. Moonshot Thinking at Google X means taking on global-scale problems (Huge Problem), defineing radical solutions to those problems, and involveing some form of breakthrough technology that could actually make them happen. They look for 10X improvements and solutions that will help one billion people.
 
 
質問文で議論 > 否定文でジャッジ
これは逆に東京で感じた衝撃。
 
私の事業案を、その領域で経験豊富な某日系大手企業の役員さん(日本人)に聞いてもらう機会がありました。その時の第一声がこれ↓
 
「(そのサービス)あまり効果がない気がします。」
 
SVの超肯定文化にドップリ漬かった後に日本へ一時帰国した翌朝のことでした。その言葉を聞いた私の第一印象は、
 
「おぉぉ、久しぶりの断言系否定文だぁ!!」
 
そう、ダメ出しが第一声で返ってきたこと自体が大変な衝撃でした。
 
同時に、これは凄く東京的かも、と思いました。生粋東京っ子の完全な私見ですが、東京では(特に割と偉い人ほど)人の意見に対しジャッジすることが無意識に目的化しているように思います。
 
一方、SVの場合、もろ手で賛同し兼ねる案に対しては、自分は可能性を充分理解できてないかもしれないという前提で、理解しようとまず質問します。更に、気の利いた提案をすることで相手に貢献しようとしたり、議論を楽しもうとするのです。
 
なので、SVでは批判・批評は多くの場合、疑問文か代替提案とセットです。

私の事業案に寄せられた質問分はこんな感じ↓

 - I'm trying to understand what will the XX look like. Can you give an example of actions, goals and skills(XXってよく分かんないんだけど、具体例くれる)?
 - Do you think it would be challenging to XX XXするのって超難しくない?
 - Another question is, why limit this to XX なんでXXに絞るの?

質問文が届くと結構嬉しいです。スタンフォード同期の質問はかなり鋭いので、挑戦意欲が湧くというか、1つ1つ真剣に考え、「そこは実は仮説が緩いの。XXもアリかと思うけど、どうだろう?」みたく質問で返したりもします。すると、更にそこから建設的な提案や議論が、時に他人も参戦して活性化していくのです。
 
一方、否定文を断言系(ピリオド)で言われると、基本的に議論はそこでとまります。私はプロのコンサルなので否定にメゲず(笑)、否定する理由等を質問するなど、相手の思考・ロジックを深く聞き出すのですが、先方が否定モードでいる場合、それは割と労力・時間がかかるのです。
 
 
実は相当大きな言霊効果?!
私は言霊(ことだま)効果を普段から信じ、実践しています。
 
人間不思議なもので、言葉で「楽しいね!」「それ最高!」と断言されると、そういう気がするものです。特に、コンサルティングのハードな仕事をしていると、難しく・大変で・辛い時こそ、リーダーが "上げる" 系の言葉を口にすることの「場」の効果は大きいと思うのです。
 
なので私は、超難題に直面した時こそ「うわ、これメッチャ楽しくない!?」と興奮気味に目を輝かせてメンバーに言いまくるのが自然な癖になっています(初めて聞く若者は驚き困惑します・笑)。
 
そんな私が、このSVの超肯定文化を体験し、真に衝撃を覚えるのは「その言霊効果、凄くないですか?!」ということです。
 
「それってどうよ...??」と半信半疑・眉寄せたくなる話こそ、「それ、めちゃくちゃ面白い!」とまず言ってみる。そして強引に面白いと思う所を見つけて褒める。すると、自分も他人もそんな気になり、建設的に議論(妄想)が膨らんでいくのです。
 
そもそも、Disruptiveな製品・サービスは、定義的に常識から逸脱するもの。最初に否定で入るのは簡単・楽だけど、それではイノベーションは生まれません。逆に、否定したくなる案(火星だ! とか)こそ「超面白い!」と断言してみる、がディフォルトな文化って、その効果は凄いよなぁ、と思うのです。
 
 
今回は事業案が題材でしたが、SVの超肯定文化の真髄はそれに留まりません。自己肯定、多様性肯定など、思うところ山盛りで、それらは改めて紹介したいと思います。