コンサル女子 Hiroko のシリコンバレー目うろこ記

生粋東京っ子が実体験から思考した、"シリコンバレーと東京の差/GAP"を紹介します

SV的コミュニケーション(1)

先日、経産省主催「シリコンバレーD-Lab×素形材産業セミナー」資料を拝見し、ほろ苦い不快を伴う衝撃を受けました。これを自分なりに咀嚼したく(笑)、「シリコンバレー(SV) 的コミュニケーション」について書きます。

広辞苑で「コミュニケーション」は「社会生活を営む人間の間で行われる知覚・感情・思考の伝達」ですが、今回は、家族・恋人・友人等身近な人同士の場合を除いた、見知らぬ人同士のコミュニケーション(プレゼンテーション・授業・初対面同士の小会話)に絞って書きます。 

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※ 本題と無関係ですがSVにある個人邸宅の見事な桜。SVでは桜をよく見かけます!

ほろ苦い不快を伴う衝撃
まず、衝撃を受けたプレゼン資料はこちら↓
 
120頁の大作です。皆さん手弁当で作成・公開され大変頭が下がります。が、誤解を恐れず言うと「もの凄く日本的!」と衝撃を覚えました。
 
ここSVで、このような資料は、公のプレゼンテーションの場で絶対目にしません。もし皆さんが、プレゼンテーション指導をSVで受ける機会があれば、この資料はイチから作り直し必須です。
#資料作成者の名誉のため補足すると、敢えて日本人読者向けに作成されたと拝察します。

生粋東京っ子の私は、このような資料を見慣れていて、自分もコンサル駆け出しの頃は似た資料を作った経験もあります。なのに "ほろ苦い不快"を覚えたことが衝撃でした。なぜ?それが素朴な疑問になりました。
 
 
そもそも "コミュニケーション"の意味が全く違う
私の経験的理解に基づく定義は以下の通りです。
 
日本的コミュニケーション: 独善的な情報授受
--> 伝達する情報の内容・メッセージ・量の多さを重視
--> 話し手は、相手が知りたい情報を正しく伝えられれば成功と思う
--> 聞き手は、内容を理解できれば満足(その場に居なくても資料が手に入れば満足)
--> お互い、仮に場が盛り上がらなくても、独善的に成功感・満足感を得やすい
 
SV的コミュニケーション: 共同責任的な好化学反応
--> 琴線の触れ合い、新しい発見・行動・関係が生まれることを重視
--> 話し手は、相手との間にポジティブ(好)な化学反応が生まれて初めて成功と思う
--> 聞き手は、新しい発見・行動・関係を得られると満足(その場に居ないと後悔)
--> お互い、成功感・満足感は相手ありきなので、共に最大限努力するのが暗黙ルール

 

SV的コミュニケーショは実は凄く難しい
乱暴に言うと、TEDスピーチを上手くやる、それも、スピーチに限らず、プレゼンテーション、授業、初対面同士の小会話など、知らない人同士のあらゆる会話で実践するのです。結構高度なスキルが要求されますが、ここSVでは、学生は当然、起業家・CEOも専門家に学び、日々、自己鍛練を重ねています。
 
私が参加したスタンフォードの起業家養成コース Igniteでも、コミュニケーションは重要テーマで、座学・実践ともに多くの時間が割かれます。詳細は別途紹介予定ですが、まずはレベル感を理解頂くため、大好きな動画を2つ紹介します!
 
1. 元CNNアンカースタンフォード経営大学院カーマイン・ギャロ先生(https://www.linkedin.com/in/carminegallo/)

youtu.be

ギャロ先生、コミュニケーションを教えながら、自ら授業で実践しているのがお分かり頂けます。使われるスライドも、冒頭紹介した資料と全く違います。なお、スタンフォード経営大学院の先生は全員このレベルの熱い授業をしてくれます。

 

2. ハーバード経営大学院、エイミー・カディ先生
(https://www.linkedin.com/in/amy-cuddy-3654034/)


途中で情熱が高じて感涙してしまうカディ先生の姿は感動的ですらあります。 

 
鍵は"面白い!"かどうか。面白くなければ相手にされない
SV的コミュニケーションでの「好化学反応」成否の鍵は、 "面白い!" かどうか、です。
 
生粋東京っ子が約8年働いた某コンサルファームで "面白い!" は、超賞賛の言葉です。顧客の社長が「へぇ〜!」と膝を叩き、役員が身を乗り出すレベル。"面白い!" 分析、メッセージ、スライドを用意することは、コンサルタントにとり至上命題でした。
 
その"面白い!"が、SVの初対面コミュニケーションで重視されます。つまり「相手がワクワクすること・人と違うことを伝えられるか」が鍵です。そして聞き手は「共感する相手に自分は何を提供/Giveでき or 獲得/Takeできるか」が最大の関心事なのです。
 
余談ですが、SVで起業した友人が、久しぶりに東京で日本人経営者と話した際、会社の売上、資本金、利益率、時価を質問され凄く困惑したと言います。曰く、SVでは絶対そんな質問されない。SVで聞かれるのは、事業のユニークさ、他社との違い、強み、今後の可能性。投資家も全く同じで、その事業はどこがユニークで、顧客の何を解決するのか、どんなチームなのか、を突っ込まれる、と。
 
具体例を、初対面同士の小会話で紹介しましょう。
私が自己紹介する時、「東京で10年超、経営コンサルティングをしていて、今はXXという会社で働いています」は、仮にXXが超有名でも、残念ながら相手に全く響きません。そして相手は「それで?」を目で訴えてきます(笑)。
続けて「実は、女性プロフェッショナルを支援するXXサービスを提供する会社を興したくて...」と言うと、相手の目がパッと輝き、そこから様々な対話が始まります。サービスの詳細を聞かれたり、自分の経験・意見を話してくれたり、人を紹介するよと提案されたり。
 
つまり、相手は"面白い!" ことを聞くまで「それで?」を目で訴え続けます。それに1-2分で応えなければ、相手は自分への関心を失い、会話は終わる。「今日は話せてよかった。XX(仕事)頑張ってね!また会おう!」と笑顔で言い、相手は去っていきます。

 

誰もが日々実践。しなれば SVでネットワークは築けない
このSV的コミュニケーションは、ごく少数が実践すること、と思うなら、それは大きな誤解です。
 
確かに、数百人相手のプレゼンや、VC相手のピッチを毎日する人は多くないでしょう。でも重要なのは、敢えて毎日「見知らぬ人同士のコミュニケーション」を地味に努力して実践する人こそが、実はSV的コミュニケーション実践者のマジョリティであり、そこから明日の成功者が生まれるです。
 
そう確信したのは、SVに住む友人(50歳超の起業ベテラン)にこう言われた時です。
・君の起業案は面白いと思うよ
・だから、ネットワークを築く方法を教えてあげよう
・こんな仲間が欲しい、思う人たちが集まるイベントに毎日参加するんだ
・そこで、君のアイディアをとにかく丁寧に熱く語るんだよ
・3ヶ月で200人と Mail か Linkedin で繋がるのが目標だ
・会ってから1−2か月後に、君の近況を知らせるメールを送信しなさい
・返事があった相手をランチかお茶に誘い、再びF2Fで話をするんだ
・そうして、君の案を同じ情熱で周囲に話してくれる代弁者を何十人と作るんだよ
・そうすれば、本当に必要な仲間・投資家が君のもとに紹介されるようになる
 
このように、具体アクションやKPI・目標値をスラスラと言われ「あぁ、これがSV標準なんだな」と感動しました。

 

「情報授受は自己責任・自己学習が前提」が暗黙ルー
翻って、日本的コミュニケーション、即ち情報授受。私はこれを不要とは思いません。むしろ変化の激しいSVの先端情報を日々仕入れることは必須です。ですが、情報の習得は、SVでは自己責任・自己学習が基本です。
 
以前お伝えした通り、今や主要イベントも即You Tubeへ動画アップされます。内容を知るだけなら動画を観ればすみ、そして皆よく隙間時間で学んでいます。逆に言えば、先端情報の学習はF2Fコミュニケーションの前提条件であり、万一知らない事実・キーワードがあれば、相手に質問せず、自分で調べるのが相手への礼儀なのです。
 
このように、基本概念・先端情報・ニュースの理解が共有されていることが、結果、F2Fコミュニケーションで好化学反応を生み出す可能性を引き上げ、逆にそうなるために、お互いが最大限努力することがSVでの暗黙ルールなのです。
 
この暗黙ルール感とその実践の有無が、日本とSVの大きな違いであり、結果、彼らと比較した時の日本人ホワイトカラーの生産性の低さに地味に影響している気がします。
 
 
SVで成功しない日本企業
SVに人を投資しても、そのエコシステムに入り込めない日系企業が多いと言われます。スタンフォード大学アジア太平洋研究所・櫛田さんの分析↓がとても参考になります。

 
この10項目が仮に事実だとして、私は、10の根っこレベルで、これまで述べたコミュニケーション概念の違いが影響していると思うのです。即ち、違いを理解しないまま、SVで日本的コミュニケーションをし続けた日本人は、SVコミュニティから相手にされない、ということです。
 
というのも、SV的コミュニケーションは、話し手・聞き手の共同責任なので、仮に努力不足 => 責任放棄と思われると、日本人にその意図はなくても、コミュニケーションを放棄したとみなされる。
櫛田さんの言う『日本企業は「テイク」ばかりで「ギブ」がない』に近いですが、ビジネス案件を話す前の初対面同士の小会話時点でそれが発露する、ということです。
 
日本的コミュニケーションに数十年慣れ親しんだ生粋東京っ子が、SVで違いを思い知り、自身のレベル不足と共にゾワッと課題意識を抱いたことが、最初に述べた「ほろ苦い不快」に繋がったのだと思いました。